革って、どうやって「革」になるんだろう。そんな素朴な疑問を手に、日本最大のレザー産地・兵庫県について、長年の作り手の方にお話を伺いました。

「良いレザーとは、結局どこで決まるのか」。長年この仕事を続けるなかで、たとえば、レザーの品質、製品の形、細部の作りと価格と、トータルで判断してきました。けれど、オリジナルバッグを作る上で、その感覚を、もっと確かな形でお客様にお伝えできないだろうか——今回、産地の品質基準を管理する兵庫県皮革産業協同組合連合会の藤本様と、兵庫の革づくりを長年支えてこられたタンナー、株式会社オールマイティの水瀬会長に、ご協力いただきお話を伺いました。

「かわ」という同じ読み方なのに、漢字が違うというのも、今回の取材で知ったことの一つです。動物から取れたままの状態は「皮」、そこに手を加えて初めて「革」と書くのだそうです。なめす前と後とで、呼び名そのものが変わっていきます。
一枚の革が「皮」から「革」になるまでには、大きく5つの工程があります。
実は、革の原料となる原皮は、食肉産業の副産物です。私たちが日常的に食べている牛や豚から生まれています。水瀬様によると、タンナーは食肉の副産物処理を担っているため、食べる量の多い牛が圧倒的な主力になるのだそうです。
牛革がこれほど一般的なのは、「牛肉がよく食べられているから」という、ごく身近な理由でした。
原皮の仕入れ先も、時代とともに変わってきました。かつてはアメリカ産の原皮が主流でしたが、今では北海道から九州まで、国内各地の原皮も用途に応じて活用されています。原皮の良し悪しを見極める目は、長年の経験と、原皮業者との信頼関係によって培われるものだそうです。
革の品質を大きく左右するのが、この「なめし」の技術です。職人の経験と技が、もっとも試される工程と言えるかもしれません。
なめしの方法は、大きく3つに分かれます。それぞれ個性がまったく違うので面白い。
「このバッグには少し復元性がほしいから、クロムを多めに」「このブーツは経年変化を楽しんでほしいから、タンニンを中心に」というように、職人の経験によって調合の匙加減をし、革の個性が決まっていくのだそうです。

「柔らかくて軽い」。その感触も職人の腕にかかっていました。
では、あの柔らかいバッグの手触りは、一体どこで生まれるのだろう。気になって、そのまま尋ねてみました。
革の硬さ・柔らかさをコントロールしているのは、主に油の量と質です。繊維同士の滑りを良くするために油が使われ、厚いほど硬く、薄いほど柔らかくなりやすい傾向があるそうです。
「硬い革と丈夫さは、実は別物なんです。大事なのは、しっかりなめされて、繊維がきちんと詰まっているかどうか」
「柔らかい=弱い」と思われがちですが、それは誤解。本当の丈夫さは、見た目の硬さではなく、繊維の詰まり方という、もっと内側の部分で決まっているようです。
続けて伺ったのは、品質管理の話です。
国産レザーの特徴を一言で表すなら、「ぶれなさ」かもしれません。
「日本人の丁寧な性格が、そのまま革づくりに反映されている気がします。同じものを、ぶれずに綺麗に仕上げる。それが日本産レザーの特徴です」
同じものを、ぶれずに仕上げ続ける。言葉にすればシンプルですが、これを長年続けてこられたことは、素直にかっこいいと思いました。
綺麗で、ブレがなく、高品質。それはただ技術が高いというだけでなく、日本人がもともと持っている美意識そのものが、革づくりにもそのまま表れているということなのかもしれません。
もっとも、革の良し悪しは、なめしや仕上げの技術だけでなく、そこから一つの製品に仕立てられるまでの、すべての工程に左右されるものでもあります。だからこそ、素材の状態だけを見て本当に良い革かどうかを判断するのは、専門家でなければ難しいことなのだそうです。
「けれど、"好きだな"と思えたものは、たいてい本当に良いものなんですよ。だから、自分の感覚を大事にして選んでもらっていいと思います」
最後に伺ったのは、持ち帰ったあとの話。長く使うためのお手入れを教えていただきました。
表面のホコリを払い、油分が奪われるのを防ぎます。
直射日光は色あせや乾燥の原因に。風通しの良い日陰がベストです。
バッグの内部に新聞紙を入れておくと、湿気を吸ってくれます。
乾燥が気になったら、専用クリームを薄くなじませてあげましょう。
※水分を多く含む乳液系のお手入れ用品は、シミの原因になることがあるため避けるのがおすすめです。
革は、動物由来の「生き物だった素材」です。水分や塩分を引き寄せやすく、カビが生えることもあります。特にタンニンなど植物由来の成分は、カビにとっての「栄養」にもなりやすいのだそうです。だからこそ、湿気を避け、時々風を通してあげることが、何よりのケアになります。
少し手間はかかりますが、裏を返せば「手をかけた分だけ応えてくれる」ということでもあります。丁寧に付き合うほど、革は愛着のわくものになっていくということですね。
日本国内で流通する革のうち、実に70%以上が兵庫県で作られています。

兵庫のなかでも、革の産地は大きく2つに分かれます。ひとつは、革産業発祥の地である姫路。もうひとつは、お隣のたつの(龍野)です。どちらも、なめしに欠かせない豊かな水に恵まれた土地で、姫路には市川が、たつのには揖保川(いぼがわ)が流れています。
「姫路は硬くてしっかりした、靴用のタンニン革が主流でした。たつのは、柔らかくてファッション性の高い革。もともとは、はっきり住み分けがあったんです」
ただ、これは「かつて」の話だと、水瀬様は教えてくれました。時代とともに暮らしの好みが変わり、今ではその境界線も、良い意味で曖昧になってきているのだそうです。
兵庫県には「ひょうごレザー」という独自のブランド認定制度があります。会員企業であること、原皮から生産した革を100%使用し兵庫県内でなめされたものであること、そして排水などの廃棄物処理が適正に管理された工場で作られていること。これらすべてを満たしたものだけが、「ひょうごレザー」を名乗ることができます。現在、この基準を満たす会員企業は225社にのぼるそうです。
原皮の調達から排水処理まで、ここまで一貫して管理されている産地は、世界的に見ても決して多くないそうです。ものづくりの裏側に、これほど丁寧な仕組みが根付いていることを知ると、自然と頭が下がる思いがします。
少し踏み込んで、産地が抱える事情についても伺ってみました。かつてのバブル期、国内の生産が需要に追いつかなくなったことをきっかけに、多くのメーカーが生産拠点を海外へ移しました。その結果、国内の職人が育つ機会が減り、担い手も少しずつ減っていくという状況が今も続いているそうです。
一方で、消費者の好みそのものも、確実に変化しています。
「生活様式や好みが変わって、スニーカーのような柔らかくて楽なものを求める人が増えました。だから需要も、硬い革から柔らかい革へとシフトしてきています。もちろん、重厚なブーツやバッグは、今もファッションとして根強い人気がありますが」
私たちが何気なく選んでいる「柔らかいバッグ」も、こうした大きな時代の流れの延長線上にあるのだと知ると、一つのバッグへの見方が少し変わってくる気がします。
取材協力:兵庫県皮革産業協同組合連合会
原皮から始まり、なめし、厚み調整、品質管理、そしてお手入れまで。一枚の革がここまでの手間と時間を経ていると知ると、何気なく持っていたバッグへの気持ちが、少しだけ変わってくるのではないでしょうか。
